環境・エコ日記

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電力市場の未来を描く、三菱総合研究所による卸電力取引の情報サービス「MPX」

卸電力取引のための情報サービス、三菱総合研究所とKYOS社が共同開発

 

電力自由化により様々な企業が参入する中、電力小売業者間の競争を促すには、電力の円滑な取引がますます重要となります。そこで、卸電力市場の活性化を図るため、将来の価格変動リスクを抑えられる電力先物取引の上場が検討されています。

市場関係者がヘッジ等を目的に先物取引に参加するためには、価格指標、燃料価格の動向、電力の需給環境など、取引の参考となる多様な情報が必要となります。また、リスクマネジメントを始めとし、リサーチ、財務・法務、情報システムなどのミドル/バックオフィスの体制整備も不可欠です。

こうした背景もあり、三菱総合研究所は独自に開発した電力フォワードカーブモデルを活用、卸電力取引のためのオンライン情報サービス「MPX」を2016年1月より運用開始しました。この電力フォワードカーブは、エネルギー取引のシステム開発で実績のあるKYOS Energy Consulting B.V.(以下、KYOS社)と共同で開発されたモデルです。三菱総合研究所が持つ日本の電力市場に対する知見と、電力自由化で先行する欧州で培ったKYOS社のモデリング技術やソフトウェアが融合したものであり、最高30分単位、最長3年先までフォワードカーブの生成が可能となります。

 

ファンダメンタルとヒストリカルの利点を組み合わせたフォワードカーブ生成

電力フォワードカーブとは、将来の電力の受け渡しについて、現時点で約定する場合の価格を、将来の受け渡し期間毎に表した曲線です。将来の卸電力価格に対する、現時点での平均的な見通しを表します。MPXでは、日本の卸電力市場の現状を踏まえ、ファンダメンタル/ヒストリカル各々の利点を組合せてフォワードカーブを作成するユニークなアプローチを採用しています。

 

フォワードカーブの生成に必要なデータは連日更新されており、かつ大量にあるため、データ収集にもノウハウが必要です。それらのデータは、ファンダメンタルとヒストリカルの2つのモデルで処理され、双方の良い部分を抽出してMPXのフォワードカーブが形成されます。下記にて、ファンダメンタルとヒストリカルデータ双方の特徴について、概要を見ていきたいと思います。

 

ファンダメンタルモデル

ファンダメンタルモデルは、電力消費量や発電プラントの状況、燃料価格から需要と供給の曲線を描いて均衡点を求める形で算出しています。時間粒度としては、1時間単位(年間8,760時間×3年間)でメリットオーダー・シミュレーションを実施した上で、月平均価格に集約しています。

電力消費量では、休日だけではなく、お盆や月末・月初、休日と祝日に挟まれた平日も違う電力需要の動きをするので、それらをタイプ別に分けて処理しています。また、発電プラントの稼働状況や、新設・廃止の時期も逐次更新、データに反映しています。燃料価格は先物価格をベースに、独自フォーミュラにより、炉前ベースの価格に変換しています。

 

ヒストリカルモデル

ヒストリカルモデルでは、過去のJEPXの値動きから、今後の値動きを予測します。過去のJEPXスポット価格を、季節・デイタイプ・時間帯別にモデル化し、ファンダメンタルモデルで算定した「月平均価格」を最高で30分単位の価格に展開しています。

データ処理方法の関係から、月の切れ目は価格変動が大きくなる傾向にありますが、不連続な価格変動が生じないよう、高度なスムージング処理を実施しています。また、時間粒度の異なるフォワードカーブ間(一ヶ月⇔1日⇔30分)を相互に補完するため、それぞれを整合した「アービトラージフリー」のカーブを生成しています。

 

卸電力取引のプライシングや電力事業のプランニング、将来のリスクマネジメントにも有効

MPXにおけるフォワードカーブが、どういった場面で使えるかというと、大きく分けて①プライシング、②プランニング、③リスクマネジメントの3つに大別することができます。

 

①プライシング

需給バランスを踏まえた公正価格(フェアバリュー)を理解することは、卸電力取引の第一歩です。電力フォワードカーブは、卸電力取引の公正価格を表す指標として、日本卸電力取引所(JEPX)で行われている“先渡取引”、将来上場が計画されている“先物取引”、取引所を介さない“相対取引”など、様々な卸電力取引のプライシングに利用できます。

②プランニング

将来の電力価格に対する見通しなしに、電力ビジネスの計画を立てることは出来ません。電力フォワードカーブは、発電所の定期修繕計画、稼動計画、それを踏まえた燃料の調達計画、外部電源の調達計画、これらを総括した経営計画などを立案する際、将来の卸電力価格に対する平均的な見通しを示す指標として利用できます。

 

③リスクマネジメント

自社の保有ポジション(発電所、売買契約)の市場価値を把握することは、リスクマネジメントの第一歩です。電力フォワードカーブは、将来の卸電力市場における保有ポジションの市場価値を表す指標として、その時価評価、リスク量の把握、これらを踏まえたヘッジ取引の判断に利用できます。例えば、一定確率下での最大損失額を算定し、それと自己資本額や売上額・利益額などとの比較によりヘッジ取引の必要性を判断する 、といったことが可能になります。

 

多岐にわたるインプットデータ、500以上に及ぶプラント情報など

MPXでは、「電力需要の時間帯別パターン」、「GDP成長率の予測値」、「再エネの導入量」、「プラントの稼働/停止情報」、「原油・石炭先物価格」、「燃料価格変換フォーミュラ」、「為替」、「JEPXスポット価格」といった様々なデータについて、各々の情報ソースからタイムリーに反映します。

 

原油・石炭先物価格についても、それが電気市場に反映されるまでにはラグが発生します。ラグが発生する要因は、発電所までの輸送時間やJEPXの入札時点のコスト評価など様々あります。こういったラグの期間は将来的に変わってくる可能性がありますが、MPXにおいては継続的にウォッチする体制も整っています。

フォワードカーブの主要なインプットデータ(前提条件)は、プラットフォーム上で閲覧可能です。例えば、太陽光による電力量は、導入量のトレンドや季節変動、47都道府県の時間別日射量を組み合わせるなどして求めていますが、そういったデータも把握することができます。

 

事業計画書の信頼性を高め、金融機関の融資に繋がる可能性

規模の小さな電力小売の事業者が事業規模を拡大する際に、資金が必要となるケースが考えられます。資金の調達には金融機関を利用する方法が一般的ですが、そうしたケースでもMPXは活用できる可能性があります。

MPXでは、「Half Hourly」、「Daily」、「Monthly」の3種類のフォワードカーブを配信しています。いずれの粒度においても3年間分の算定が可能となっており、電力ビジネスの計画を立てること(プランニング)や、自社の発電所、売買契約の市場価値を把握すること(リスクマネジメント)ができます。金融機関に説明をする際の事業計画にも活用できる可能性があり、資金調達が成功すれば事業拡大の活路が開けます。

 

ASPの利用で独自の見方を反映させたフォワードカーブの形成

フォワードカーブのクオリティは、算出の根拠となるデータの正確性と密接な関係があります。新電力会社は燃料の調達価格など、独自のデータを所有している場合もありますが、そのデータはASPの利用でフォワードカーブに反映させることができます。

 

新電力会社が事業発展するには、電力事業の運営に係るノウハウ・情報の蓄積が一つの重要なファクターとなります。その点でASPサービスの利用者は、自社が持つ独自データをフォワードカーブに反映させることにより、電力市場に関する新しい洞察が得られる可能性があります。

また、ASPサービスでは、フォワードカーブが描き出されるまでの計算方法・過程とともに詳細なインプットデータも合わせて提供するので、独自のノウハウ構築にも役立ちます。新電力会社は自社の限界費用などを見るために、独自のモデルを持つケースもありますが、MPXの仕組みと比較することもできます。

 

選べるプランは4種類

MPXの利用は4種類のプランから選択することが可能であり、それぞれに特徴があります。まず、Aプランは、大まかなマンスリーのフォワードカーブを見たい方向けです。電力市場の価格形成までの前提条件には関心がなく、金融的な取引情報として値動きを把握したい金融プレイヤーに適したプランとなります。

Bプランは、市場価格の形成について、自分なりの見方を作っていきたい方向けです。マンスリーのフォワードカーブとともに、前提条件やインプットデータも見ることができます。

Cプランでは、不特定多数のニーズを持つ新電力会社向けのデイリー粒度のフォワードカーブが見られます。月の平均価格だけではなく、特定の期間における電気が必要な場合など、特殊なニーズにも応えられる内容です。

Dプランは、電源の運用まで含めたニーズに対応するためのプランです。30分単位の一番細かいフォワードカーブの提供を受けることが可能であり、価格ベースで適切な電源立ち上げの時期などのプライシングが可能となっています。

 

将来的にはリスクマネジメントシステムの構築やトレーニングも実施予定

MPXでは、6月1日から、オプションで東西2エリアのエリアプライスの配信サービスを開始しています。また、フォワードカーブの配信のみならず、将来的には、さらに機能を拡充する予定です。

例えば、リスクマネジメントの面では、リスクマネジメントシステムという統合的なものを構築する予定です。また、社内セミナー、トレーディングのためのトレーニングといったサービスも展開していくとしています。

 

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